神奈川工科大学附属図書館
 
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図書館Café Vol.9 No.1 発行日:2019年11月30日

発行所 :神奈川工科大学附属図書館
図書館長:松本 一教 編集委員長:谷田 良子
編集委員:高橋 正雄・高橋 宏・田岡 壮平・大竹 良

 
 



 神奈川工科大学読書コンテストは、学生の主体的な学びを励まし、文章作成・発表の実践力を培うことを目的に、基礎・教養教育センターと図書館の共催で開催しています。6回目となる今年度は75作品の応募があり、優秀作品に選ばれた10名が9月20日(金)の最終審査に臨み、見応えのあるプレゼンテーションを繰り広げました。『 図書館Café Vol.9 No.1(読書コンテスト特集号) 』では、最終審査に進んだ10名の受賞作品を掲載いたします。今後の読書と学習の参考にしていただければ幸いです。

 

学長賞


「死」を通して「生」を見る


 なぜ動物は進化の過程で「死」を克服できなかったのか? この本は、このような誰もが「確かに」と思う疑問からはじまる。細胞死について調べている途中で見つけた本は、遠巻きにしていた「死」の世界の美しさや凄さを見せてくれると同時に、私に「死」と「生」の意味を考えるきっかけをくれた。筆者の「死」に関する体験を熱烈に書き綴ったこのエッセイの中で、私が特に印象に残った部分は、筆者の死骸に対する考え方だ。動物が大量死すると、動物愛護団は惨状を嘆き、自然保護を訴えるが、それに対して筆者は「その死骸から生まれる生命だって沢山ある」と言う。この発言を受け、私は目の前の「死」にばかり目を向けて、違う生命の「生」を見ていなかった自分を自覚した。何かの死は何かの生となる、当たり前のことだが、この本を読むまで深く考えたことはなかった。当書の最後に『私達はこの惑星において生命について考えて死ねるという最高特権を持っている』という文がある。「死」と「生」とは何か、きっと私がこれから先考え続けても明確な答えは出ないと思う。しかし、そうやって生命について考えながら死ぬことが、私達人類にとって「良い死」なのではないかと私は思う。この本は、そう思わせてくれるきっかけをくれた一冊である。






『動物学者が死ぬほど向き合った「死」の話
 -生き物たちの終末と進化の科学-』

ジェールズ・ハワード 著 中山 宥 訳
フィルムアート社
配置場所:2階書架
請求記号:481.35||H
書誌URL:http://kw.kait.jp/opac/BB01265398

 

紀伊國屋書店賞



承認欲求からの脱出


「嫌われる勇気を持ってこそ、人生を自由に生きられる」 ――という文章に私は目を疑った。人に嫌われてなぜ自由に生きられるのか、嫌われても良いことは無い、むしろ悪いことしか無いのではないだろうか。しかし、アドラーの考える思想はそれらをすべて覆し、幸せまでもつかみ取れてしまうほどだった。幸せになるためには「承認欲求を捨てる」ということだ。「親に褒められたいから勉強を頑張る」、「人に認められたいから名門大学や大企業などを目指す」といったほかの人に認めてほしいという承認欲求であり、誰しもが心当たりがあるのではないだろうか。人の評価でしか自分の価値を実感できなくなった人は、認めてもらうためだけに行動してしまう。人の期待に対し応えてばかりいると、自分らしさ、幸せが程遠くなり、常に他者の評価に怯え、世間体を気にする人生で自分の本当にしたいことすらわからなくなってしまう。承認を満たすために他者の期待に副う人生は、自分の人生を生きているのではなく他人の人生を生きているも同然なのだ。そのため承認欲求を満たすための人生は不幸だと理解することが重要だ。





『嫌われる勇気:
 自己啓発の源流「アドラー」の教え』


岸見一郎・古賀史健 著
ダイヤモンド社
配置場所:2階書架
請求記号:146.1||K
書誌URL:http://kw.kait.jp/opac/BB01107994

 

図書館長賞


「こころ」に見る本当の「愛」


 大学生である「私」はある日謎めいた人物「先生」と出会う。やがて交流が深まるにつれ、「私」は「先生」の秘密を知りたいと思うようになります。そしてついに「私」は「先生」の秘密を遺書という形で知ることになります。高校生の頃に読んだときは「先生」のどこか達観した性格やその悲哀に満ちた言動、そしてその悲劇的な最期に、孤高の文化人が持つ「心」のようなものを感じ憧れました。
 しかし、今読み返すと本当に深い「心」を持っていたのは実は先生の妻、「お嬢」だったのだと思います。「先生」の秘密である「K」の自殺の真相についてですが、これについて「お嬢」は気づいていたと思います。「先生」が唐突に婚約を申し込んできて、そしてその直後「K」が自殺した。「先生」は、「お嬢」は何も気づいてないと思っていたようですがそんなことはないと思います。その上で先生と結婚し暮らしてきたのならば、「先生」以上に懐の深い人物ではないでしょうか。相手の弱さを知ったうえでそれを受け止める。これはまさしく愛のなせる業だと思います。最後「先生」に取り残された「お嬢」ですが、これからも強く生きていけると思います。
 今、改めて作品を読み返すと大きく印象が変わりました。かつては「先生」の心の深さに憧れましたが、今は「お嬢」の心の広さを尊敬するようになりました。
 この作品は今と昔で全く違った見方ができます。これこそがこの作品が夏目漱石の傑作のひとつとされて、今日もなお国語の教科書に載り続ける理由だとわかりました。


『こころ』


夏目漱石 著
集英社
配置場所:1階文庫書架
請求記号:B913||N
書誌URL:http://kw.kait.jp/opac/BB01055011

 

会場賞



“偶然”を噛み締めること


 私はこの作品を読み、“偶然”の大切さを学びました。この本との出会いも偶然のことでした。 仕事帰りの母が、偶然時間が余ったからと立ち寄った古本屋でなんとなく買ってきた数冊の本。その中から偶然私が手に取ったのが、あさのあつこさん作の『NO.6』でした。この本の中で主人公である二人の少年も偶然の出会いを果たし、その出会いから様々な事件を乗り越え、解決し、前へと進んでいきます。彼らは何度も命の危機に見舞われますが、それでも彼らは生き延びることができました。彼らの命を救ったものは“偶然”でした。偶然のめぐり逢いをした人、偶然の順番、偶然のタイミング。そんなものたちに助けられたのです。私は以前、偶然、というのは、運任せで当てにするものではない、そう思っていました。しかし、この話を読んで、“偶然”は時に自分の人生や人の人生を変えてしまうこと、その“偶然”に助けられることの尊さを知りました。この話を読むと、きっと偶然を信じたくなるのではないのでしょうか。私はこの話を読んでから、様々な“偶然”が起きる度に、これはどんな風に私の人生に影響を及ぼすのだろう、と考えるようになりました。ぜひ皆さんもこの本を読んで、偶然に思いを馳せてみるのはどうでしょう。きっと素敵な“偶然”が皆さんを待ち受けています。



『NO.6(ナンバーシックス)』



あさのあつこ 著
講談社
配置場所:2階書架
請求記号:913.6||A
書誌URL:http://kw.kait.jp/opac/BB00177917

 

優秀賞



時空間の崩壊によって


 時空間の崩壊によって、それを基とする因果律がどうにかなった。しかし、この考え方も因果律である。もう何でもありであり、それなら何でもありの否定もありではないかといったふざけた世界がある。
 この本は各20ページほどのSF短篇集である。でも各話は僅かながらつながっていて、全体として壮大な物語になっている。世界観は数学や計算機科学等の難解な学問をベースにしており、読者は右も左も分からない場面に次々と放り込まれる。だがそれを徐々に把握し、文章の意味に気付く楽しさは痛快だ。
 この本を読みながら思い出したのは、あるところで見た「SFが科学技術の発展に与える影響もある」というものだ。SFに限らず、本は興味や考えを広げてくれる。『Self-Reference ENGINE』もまた、自分の思いの至ることのなかった深い思想を見せてくれた。それは同時に、自分の見えていない世界が無限にあることも知らしめた。まるで膨張し続ける宇宙のようだ。特に「自己言及」に対して敏感になってしまった。
 実を言えば、複雑ゆえに、批評家による解説がなかったらあやふやにも理解できたとは言えなかった。ともかくこの本は難解であるから、読むとしたらその準備として、この本を一周読んだらいいんじゃないかとさえ思える。そんな本である。


『Self-Reference ENGINE』


円城 塔 著
早川書房
配置場所:1階文庫書架
請求記号:B913||E
書誌URL:http://kw.kait.jp/opac/BB01106772

 

優秀賞



コンプレックスと拠り所


 人と会った際の印象とは大半が見た目に影響されるそうだ。この話は、古くからよく耳にするほどのかなり有名な話であろう。幸い私は良くも悪くも「普通」に分類されるような見た目をしていたために特別苦労をしたようなことは無かったと思うが、もし仮に「普通」でなかったら…。
 私が今回読了した本の主人公は顔に大きな痣があるがために怖がられ、距離を置かれていた。痣のせいで小学校・中学校と多くの苦労を経験し、まともな神経をしていないと自虐する。
 この手のコンプレックスの話題となると多くの場合、劣等感があったからこそ達成できた、というような話に落ち着く場合が非常に多いように思われる。しかし当然コンプレックスに押しつぶされる人もいる訳で、彼が痣に大きなコンプレックスを抱いていることは、作中の視線に関する描写の多さが物語っているだろう。
 しかし、彼は心の拠り所である少女がいたからこそ立ち直ることができ、彼女のために行動することができた。彼女に寄り添うことができた。
 もし私が「普通」でなかったら。苦労は確実に増えるだろうし嫌なことも多いだろう。だが、拠り所は必ずどこかにあるし、普通でなくとも誰かの拠り所に成ることができる。
 この作品がそんな風に訴えかけてくるようだった。


『君が電話をかけていた場所』 
『僕が電話をかけていた場所』


三秋 縋 著
KADOKAWA
配置場所:1階文庫書架
請求記号:B913||M
書誌URL:
http://kw.kait.jp/opac/BB01147127
http://kw.kait.jp/opac/BB01183698

 

優秀賞



「運転停止」した電車、見え始めた「選択」


「人生は選択の連続である」――かの有名なシェイクスピアの言葉である。選択とは就職や進学等の人生を左右する大きな決断から、朝御飯をパンにするか米にするか小さな選択、今日靴を履いて外に出るか否かといった無意識の選択まで存在する。この本は、夜の満員電車が事故により運転見合わせになったことで始まる、彼らの「選択」の物語だ。
 夜の電車に乗る。ささやかな出来事に「運転見合わせ」という神様のいたずらが加わり、彼らは新たな「選択」を発見していく。私はこの本を読んで、私はどれほど「選択」した事を認識しているかを再確認させられた。結果から言うと、私は「人生」というレールを進むにつれて認識できなくなっていた。幼い時は全てが新しく、あちこちに疑問というものが転がっていた。大人になるにつれてそれは消えていった。お年寄りから電車の席を奪おうとしていた幼き私を恥ずかしくも同時に、憧れを感じた。決して、席を奪う行為に対してではない。席を奪おうとする「選択」を認識していることにだ。私は電車が満席だったら立つ。これに対し「選択」をしたという認識はなかった。
 私は人生というレールを進む最中、この本を読んでいる間は「運転見合わせ」となっていた。これからも「運転見合わせ」という神様のいたずらがなくても、「選択」を認識できるように進みたい。


『終電の神様』



阿川大樹 著
実業之日本社
配置場所:1階文庫書架
請求記号:B913||A
書誌URL:http://kw.kait.jp/opac/BB01266294

 

優秀賞



雑談の原則とは


「雑談の仕方」を教えてくれた人が今までいただろうか。雑談は、おしゃべりな人には問題とすら思わないだろうが、苦手な人には深刻な問題である。積極的に、雑談に人に触れてこなかった人が、それでもやはり他人とつながりたいと感じた時、この本を読むべきである。
 本には「挨拶に話題を1つ加える」、「まず、見えているところに触れる」など具体的なことが多く掲載されている。それらを作者のリアルな経験を通して学ぶ中で、もっと本質的なことが見えてきた。それは、雑談はコミュニケーションであるということだ。雑談を通して人は相手を推し量り、人間性を垣間見ることが出来る。だからこそ、相手にどう思われるか気にして受け身の姿勢になってしまっていたが、コミュニケーションならば、まず相手を知ろうとする気持ちがないと始まらない。方法やルールなどで理論武装するのではなく、相手をもっと知りたいと思い、自意識を下げることが雑談の原則であり最も大切なのだ、ということに自分は気づかされた。
 現代では人と人とのつながりが希薄になり、隣人ですらよく知らないのがあたりまえになっている。だからこそ雑談というツールを使うことで人間関係の溝を埋め、互いに歩み寄っていくべきなのだ。



『雑談力が上がる話し方
 30秒でうちとける会話のルール』



斎藤 孝 著
ダイヤモンド社
配置場所:2階書架
請求記号:809.2||S
書誌URL:http://kw.kait.jp/opac/BB01088319

 

優秀賞



スクールカーストに差す一筋の光明


 この本を読み終えて思い出したことがある。それは母校で起きたいじめだ。
 きっかけは些細なことだった。体育祭のクラス対抗リレーで、私のクラスメートがバトンを落としたのである。それが最大の敗因ではなかった。にもかかわらず、彼は戦犯として扱われ、長い間無視などのいじめを受け続けた。なぜあれほどの扱いを彼は受けなければならなかったのか。その謎を解く鍵が本書の中に隠されていた。
 本書は、バレー部キャプテン桐島が部活をやめるという出来事を軸に、高校生の日常生活を描いた作品である。本書の特色は、クラスが序列化された空間として表象されている点にある。象徴的なのが、地味で目立たない前田が体育の授業でミスを犯したときのシーンである。ミスをした前田に励ましの言葉をかける者もミスを責める者もいない。彼はそこにいないかのように扱われる。まるで彼のクラス内でのランクを示すかのように。
 本書の最大の読みどころは、このような閉鎖的で階層的な空間を打破する可能性が示唆されるクライマックスのシーンである。階層上位に位置しながらも、クラスの階層構造に違和感を感じる菊池は、前田が映画仲間たちと熱中して映画を撮影している場面に「ひかり」を感じ、前田のように打ち込めるものが無い自分にむなしさを覚える。菊池が感じた「ひかり」は、スクールカーストの外部へと通じる希望の一筋を、私たち読者にも照らし出してくれる。


『桐島、部活やめるってよ』



朝井リョウ 著
集英社
配置場所:2階書架
請求記号:913.6||A
書誌URL:http://kw.kait.jp/opac/BB01049983

 

優秀賞



初恋を引きずり続けた男の末路


 私には正しい恋愛とは何なのか定義することができない。これはきっと、失恋を経験した人にしか分からない感情だろう。不倫のような人の道を踏み外した男女関係にある事が悪だとするならば、人は倫理的に正しいから恋をするのだろうか。この本からは、対人関係で守るべき道徳感を学ぶことができた。
 この物語の主人公の男の子は、失恋とは少し違う喪失感を抱えて思春期を過ごすこととなった。だからこそ過去の思い出に縋るしかなかったのだ。しかし、それは同時に精神的未熟さ故の甘えであった。同い年の少女の好意を分かった上で拒絶し、以降も付き合う女性を精神的に悲しませてしまう。物語の最後には、色々な人のことをほとんど何の意味もなく傷つけてきた自身の身勝手さを自覚し、後悔と自責の念に捕らわれ涙を流すのだ。初恋を、社会人になるまで引きずり続けたことによる代償を痛い程現実味を帯びた文面で表現されており、他人事ではないという焦りと恐怖を感じた。
 私も一番最初に付き合った女性の事を忘れられず、比較して見たり、正面から向き合えなかったりすることが多々ある。この本を読んで、そのような自身の価値観を悔い改め、もっと真剣に相手の気持ちを尊重し、思いやる心を大切にしようと考えられるようになった。



『秒速5センチメートル』



新海 誠 著
KADOKAWA
配置場所:1階文庫書架
請求記号:B913||S
書誌URL:http://kw.kait.jp/opac/BB01216757

 

総評

審査委員長/基礎・教養教育センター教授
師玉真理 先生


 ここ最近ノーベル文学賞候補として恒例のように名前のあがる村上春樹ですが、彼の初期作品群には、しばしば “僕のために用意された何かを見いだすこと” (『国境の南、太陽の西』)へのつよい拘りが顕れます。彼の場合それは対人的なものなのだけれども、私見では、たとえば本を読んでその本について書くという作業も、書物から彼のいうような “僕(私)のために用意された” その “何かを見いだす” 営為なんじゃないか、と常々考えてきました。
 この “何か” は、あなただけに用意された作品世界の入り口であり、みずからの思考世界を広げる固有の “鍵” のようなものです。今年度のコンテストでは、どの応募作品にも、そうした “何か” を見つけようとする意志を感じられたのが印象的でした。もちろん、なんとか入り口に入れた人、その扉を開こうとしてもう少しのところで力尽きちゃった人、あるいは入り口は見つけたもののその手前でとどまってしまった人、いろいろです。けれどもそこに “僕(私)のために用意された何か” を見いだそうとする意志があることが何より重要で、それがあなたにとって、ひいてはこの読書コンテストにとっても意義のある空間をかたちづくってくれるし、またそのおかげで、本年度もとてもいいコンテストになったのではないかと感じています。


図書館長/情報工学科教授
松本一教 先生


 本学読書コンテストも6回めとなり、過去最高の応募数となりました。古典文学から最新の流行小説まで、がっちりした学術書的なものから科学入門書まで、幅広い分野の本を読んでの感想が集まりました。ここ数年で大学生の読書離れが一段と進んでいるのですが、本学にはしっかりと本を読む諸君がいることに安心しました。文章を書けない大学生も増えているのですが、ほとんどの応募は内容も十分でしっかりした文章であることにも安心しました。また、パワーポイントを使っての最終審査会での発表も個性あふれる立派なものでした。
 柳田国男は「書物を愛する道」という短編の中で、読書ということが冒険と似ていると述べています。冒険のように、やってみなければ(読んでみなければ)、結果がどうなるのか、自分にとって何なのかが分かりません。他人の言葉は、ヒントになりますが、冒険をやり抜くのは自分自身の力であり、本の価値を決めるのは自分自身です。だからこそ読書の面白さがあるのですね。とはいっても、自分ひとりで本との冒険に取り組むことは大変なことです。図書館のスタッフ一同は、みなさんの冒険をいつでも手伝えるようにお待ちしています。いつでも図書館に来て、スタッフに気軽に相談してください。
 

総評

審査委員/基礎・教養教育センター教授
高橋正雄 先生


 読書コンテストも6回目を迎えて、本学にも定着しつつあるようだ。今年の応募数はこれまでの最高の75作品(71名)であった。内訳をみると、学年別では、1年生37作品、2年生9作品、3年生23作品、4年生6作品で、学部別では、工学部13作品、創造工学部4作品、情報学部54作品、応用バイオ科学部2作品、看護学部2作品であった。昨年に引き続き応募してくれた学生は6名で、1人で複数の作品を応募してくれた人の中には留学生も含まれる。
 審査は公平、公正を期して次のように行われた。最初の審査には図書委員全員が参加し、1つの作品を2名で評価した。文章評価の基準としては<1.文章><2.メッセージ性><3.説得性>を挙げているが、文字数が500字と少ないので、どうしても文章から受ける総合的な印象が重視される傾向にある。最初の審査が多数の審査員による審査なのに対して、次の段階の審査では、審査委員5名が1つ1つの作品に時間をかけて丁寧に検討し、プレゼンテーションへの候補作品を選定した。最終審査では、書類審査とプレゼンテーションの評価のバランスを考慮して各賞を決定した。今年も、プレゼンテーションと最終審査には学長にも参加していただいた。
 総じて今回も良質の作品が多く、その分審査も大変だったが、主催者側にとってはうれしい悲鳴でもあった。学長賞の『「死」を通して「生」を見る』では、動物学者の向き合った動物の「死」に対する考え方について、自分なりの気づきを上手に表現していた。図書館長賞の作品では夏目漱石の『こころ』 を取り上げて、高校の時も読んだが「今改めて作品を読み返すと大きく印象が変わりました」と、視点を変えて見ることの大切さを伝えていた。紀伊國屋書店賞の『承認欲求からの脱出』では「他人の評価でしか自分の価値を実感できない」ことに色々な思いをめぐらせていた。会場賞にはプレゼンテーションで聴衆に強く印象に残ったものが選ばれた。もちろん入賞した作品は素晴らしかったが、今回は入賞を逸した作品の中にも、素晴らしい作品が埋もれていた気もする。個人的には数学者高木貞二氏の『初等整数講義』を取り上げた作品に目が行った。
 ところで、読書コンテストの成否は何によってきまるものだろうか。たぶん応募者数の多寡ではなく、応募者自身が読書によってどのように思索を深め、その作品を読んだ人がどれだけ共感して本を読んでくれるかによって決まるような気がする。その意味では、まだまだコンテストは終わっていない。最後に、応募してくれた学生の皆さんに敬意を表すると共に、来年以降も一層素晴らしい作品の応募を期待したい。